[レポート]鉄拳アニメーションの流儀 #CEDEC九州 #classmethod_game

[レポート]鉄拳アニメーションの流儀 #CEDEC九州 #classmethod_game

Clock Icon2024.12.03

ゲームソリューション部の えがわ です。

CEDEC+KYUSHU 2024に現地参加してきましたので、セッションレポートを書いていきます。
今回は「鉄拳アニメーションの流儀」の概要をお伝えします。

セッション概要

http://cedec-kyushu.jp/2024/session/05.html

鉄拳プロジェクトにおけるモーションキャプチャーデータの取り扱いに対する考え方、アニメーターごとの作家性、独自性を発揮できる制作スタイル、格闘アニメーション制作のノウハウについて紹介させていただきます。「鉄拳8」はリリース時、総勢32キャラクターが参戦しましたが、それぞれのアクションの方向性における棲み分けについても触れたいと思います。

鉄拳におけるリアリティとは

リアリティの定義

前提としてリアリティの定義は個人によって異なる
リアリティという言葉をどのような価値観で定義しているかによって解釈が違う。

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格闘ゲームでよくある、上段、中段、下段の防御は実際の格闘技ではありえない。
※ローキックをしゃがみガード...?

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鉄拳では現実の動きをそのまま再現することではなく、鉄拳世界におけるリアリティを作り上げる。

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格闘ゲームであって、格闘技シミュレーションではない

格闘技未経験者の格闘表現は漫画や映画のかっこいいポーズ集であることが多く、現実とギャップがある。
格闘家のモーションキャプチャデータを参考にしつつ、ゲームの世界観に合わせて大幅に修正を加える。

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アニメーションテーマとして超暴力アクションとしている。
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アニメーション制作について

モーションキャプチャ

アニメーション制作にはモーションキャプチャを活用している。

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アニメーション制作の背景

1から手作業でアニメーションを制作できる能力を重視してきた。
当時はモーションキャプチャーが未成熟であり、手作業で大幅な修正が必要だった。

モーションキャプチャー技術が発展した後も、ゲームシステムと齟齬が生じる。
格闘家の実践的な動きは「映える」動きとは違う。

項目 リアル ゲーム
右ストレート 腕が伸びきる直前にヒット 肘を伸ばし切った状態でヒット
拳の角度 手首を内に丸め込める 丸め込めない
相手との角度 左右の軸移動が大切 真正面

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アニメーション制作の哲学

企画職のスタッフもアニメーション制作に深く関与する。
新人もアニメーション研修が必須となっている。

アニメーターは完全手作業でもデータを作成できるが、
モーションキャプチャーを使用する理由として、引き出しを増やすことに使用する。

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アニメーターがスーツを着てアクターをすることもある。
イメージを持っているアニメーターが動いたほうが効率が良い場合もある。
スタジオだけでなく、センサー内蔵型のスーツを着て撮影することもある。
精度は落ちるが、カメラも不要なため土壇場での撮影で即対応可能。

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アクターがプロ格闘家の場合

技の見た目だけであればアニメーターだけで制作は可能。
だが、1段階進んだ誇張であったり、体操作やコンビネーションのコツなどを聞くことがある。
キャラクターに合わせた演技までは期待せず、普段通りにやっていただくのが一番。

アニメーターがプロ格闘家の技を実際に受けることも...

モーションキャプチャーまとめ

すべてのキャプチャーデータに対してアニメーターの手が加わっている。

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モーションキャプチャーは下書きや資料として扱っている。
撮影したけど全く使わない、なんてこともある。

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格闘家は動きを悟らせない
鉄拳は動きを悟らせたい

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アニメーションデータの管理について

データの管理は行っていない

鉄拳では過去作のデータを管理していない。
過去のデータを管理するよりも、新キャラ、新技等の新しい遊びに力を入れている。
整理する時間があるなら、新しいものを作ることに時間をかける。

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アニメーターID

鉄拳では、すべてのアニメーションファイルに制作者のIDが付与される仕組みになっている。
このIDはデバッグメニューからでも確認でき、どのアニメーターが制作したのかが一目で分かる。

この仕組みにより、アニメーターは自分の作品に「署名」を残すことができますが、同時に大きな責任も伴う。
クオリティの低い作品はアニメーターの評判を下げ、かといって1つのモーションに時間をかけすぎると、制作本数が少なくなり存在感が無くなる。

他のアニメーターの作品を引き継ぐ場合でも自分のIDを付与するため、手を抜くことはできない。
新人もベテランも、担当したデータに対して責任を持ち、質と量のバランスを保つことが求められる。
そして、優れたモーションを継続的に作成することで、アニメーターへの信頼は自然と高まる。

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バトルアニメーションについて

キャラ担当アニメーターが存在

新キャラクターの動きや技の仕様を考えるのもアニメーターの仕事。
キャラクターに命を宿すのが鉄拳アニメーター。

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バトルアニメーションの座組

キャラ担当アニメーターとバトル担当企画がユニットとなる。
バトル担当企画が遊びの構築、バランシングが重要。
新人はいきなり新キャラを担当するのではなく、難易度の低い既存キャラの担当を行う。

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必殺技演出について

絵コンテもアニメーターが作成する。
必殺技演出に関しては効率の良い量産体制をとるため、少数精鋭で取り組む。
各セクションのチェックを挟まずに、ディレクターが直接チェックする。
カメラもアニメーターが担当する。

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さいごに

鉄拳のアニメーション制作における実践的なアプローチに非常に勉強になりました。
モーションキャプチャーを単なる省力化ツールではなく、クリエイターの「引き出しを増やす」ための手段として活用している、また、アニメーターが実際に格闘家の技を受けるといった点が非常に印象的でした。
アニメーターID等のシステムを通じて、制作者の責任感とプライドを大切にする文化も、高品質なアニメーション制作を支える重要な要素だと感じました。

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